言葉は,言葉で名指す以前の事態や状態を音声や文字によって価値づける便利な道具です。月や雪,木々や動物たちを,ただ指さして唸っているだけではなにもなりませんから。ただ,名指して価値づけ,意味づけた事象も,時間の経過とともに変化するので,昔使っていた言葉が,同じように機能するとは限りません。同時に言葉は,まだ漠然として分からない何かを見つけるためのツールともなるので,未来を,できれば誰にとっても良い方向へ切り開くために使いたいものです。ハイフンで連結されたWell-Beingは,新しい言葉であるが故に一筋縄では行きませんが,そのような性格を持っています。
さて,このセンターに託されたのは,超人口減少地域の,子ども,教師,社会のウェルビーイングを実現することです。人口減少地域では,所謂グローバルな〈システム〉の枠組みに収斂されないさまざまな実際が存在します。〈システム〉は,例えばスターバックス的でマニュアルが優先され,匿名的であり,入替を可能とします。しかし,超人口減少地域では,恐らく〈生活空間〉にある近所の喫茶店の,マニュアル的ではない店主の善意や腕前,そして自発性が優先されなければいけません。つまり入替不可能なのです。この〈システム〉と〈生活空間〉は,入れ子のように関連し合っているので,〈システム〉は個々の自発性を植民地支配するべきではない,と同時に,〈生活空間〉は,矮小化した〈システム〉としての世間になってはいけない,ということにもなります。
子どもと,教師,そして社会の関係も,やはり入れ子構造です。教師は少し前まで子どもだったし,子どもはやがて大人(もしかしたら教師)になります。子どもと大人(或いは教師)の二項対立は社会がつくりますが,その社会も変化します。そのような,青森県を基盤としたダイナミックな営みを調査・研究し,未来のウェルビーイングを構築することで,これまで実は存在しなかったかもしれない〈子ども〉の誕生に寄与するのが,このセンターの役割となりそうです。
次世代ウェルビーイング研究センター長 今田 匡彦